
相手の契約書ひな形をそのまま受け入れてよい?リスクや留意点について弁護士が解説!
- 契約書作成・チェック
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こんにちは。法律事務所Zの弁護士の坂下雄思です。
今回のテーマは「契約から発生する損害」についてのお話です。
「契約が大切というけど、実際にどんな損害が発生するのかよくわからない」
「これまで問題が起きてこなかったから、問題が起きてもたいしたことはないだろう」
契約についてこのようなご認識をお持ちの経営者の方も多いのではないかと思います。
しかし、私たち弁護士は、契約をないがしろにしたがゆえに、大きな損害を負うことになった事例を目にしています。
以下では、契約の類型ごとに発生する損害・請求を見ていきましょう。
物品の売り買いをするのが売買契約ですが、典型的には次のような損害・請求が考えられます。
⇒建物の売買で、修補に必要な費用として売主は約350万円の支払いを命じられています(東京地判平成28年10月28日)。
⇒転売利益として売主は約2300万円の支払いが命じられています(東京地判令和5年10月11日)。
⇒契約当事者の一方の債務不履行により売買契約を催告の上で解除した場合は、他方当事者が売買代金の10%相当額を支払う条項があった例では、2億1000万円の支払いが命じられています(東京地判令和5年11月2日)。
⇒従業員の死亡事故も発生している事案で、売主は総額で約4億2000万円の支払いが命じられています。また、取締役個人についても同額の支払いが命じられています(那覇地判平成5年8月23日)。
契約類型としては非常に一般的な売買契約からでも、多種多様な損害・金銭的負担が発生することが分かります。
納入する製品の特性によっても発生する損害・金銭的負担は変わり得るので、自社の取引の内容をよく考えて契約を締結しなければなりません。
業務委託契約には多様な類型がありますが、以下のとおり損害・請求が認められた事例があります。
⇒別のところに業務を委託するために必要な費用として約2500万円、支払った金銭の返還(業務委託契約の解除に基づく原状回復請求)として約530万円の支払いが命じられています(東京地判令和5年9月28日)。
⇒ごみ焼却施設の運転管理等に係る業務委託契約を締結した受託者の作業員が行った溶接作業により火災事故が発生した事案で、失火責任法、不法行為(使用者責任)又は予備的に債務不履行により受託者は約7億5000万円の支払いを命じられています(岐阜地判平成5年5月31日)。
⇒物流センターに関する業務委託契約についての事案で、約1800万円の支払いが命じられています(東京地判令和6年2月16日)。
以上のほかに、業務委託契約では「業務が完了したか否か」という点が問題になり、報酬金の請求で訴訟になることも多くあります。一方当事者としては「業務は完了した」と考える者の、他方当事者としては「業務は完了してない」と考えるためです。
この場合には、「業務」の内容が契約書において具体的に整理・特定されているかという点がポイントになりますので、契約書の確認においては注意を払う必要があります。
賃貸借契約では、賃料の支払いや原状回復費用の請求が問題となるケースが多いと考えられます。例えば、以下のような事例があります。
⇒賃貸借契約を終了したと主張していたが、その主張が認められず約7500万円の賃料等の請求権が認められた事例があります(東京地判令和5年7月20日)。
⇒約1億3700万円の原状回復費用の請求権が認められた事例があります(上記と同じ事例)。
物件の賃料にもよりますが、支払いを求められる金額が大きくなるケースが多いと思われます。
また、賃貸借契約の終了のためには一定期間より前に通知することなどが求められますが、その手続を契約に則って行わなければ、想定外の賃料相当額を支払う必要性も生じます。
賃貸借契約を締結する際には、どのような手順で契約を終了することができるかは非常に重要なチェックポイントになります。
M&A契約は複雑ですが、例えば以下のような損害・請求が考えられます。
⇒株式譲渡契約について、売主が説明義務に違反したものとして、約2000万円の支払いが命じられています(東京地判平成19年7月26日判タ1268号192頁)。
⇒株式譲渡契約で合意されていた競業避止義務違反に違反したとして、売主は800万円の支払いを命じられています(東京地判令和5年12月26日)。
⇒株式譲渡契約における売主の表明保証違反を理由として、約2200万円の支払いを命じられています(東京地判平成28年12月20日)。
M&A契約では説明義務違反・表明保証違反を理由とする金銭請求がなされることが多くあります。
また、M&A契約で定められた義務(退職金の支払い)に関する訴訟もあります。
契約書上での取り決めに加えて、それを適切に履行させることにも配慮しながら契約・取引を進めていくことが重要です。
日常業務で締結する契約でも、特別な類型の契約でも、損害が発生する可能性はあります。
上記で例として示した全てが契約書の不備によるものではありませんが、契約書をしっかりとチェックしておけば、回避できた損害・請求もあるでしょう。
契約書をチェックしないということは、そのようなリスクを放置しているということもできます。
そして、「これまでに問題が起きたことがないから対策はしなくてよい」という考えは禁物です。たまたま問題が発生していないだけで、明日問題が起きないという保証はありません。
問題が発生すると、実際の金銭的な負担に加えて、訴訟対応に時間・費用・労力がかかることも想定されます。
顧問料がもったいない、契約交渉に時間を割くのがもったいないと感じる方もいらっしゃると思います。
しかし、リスクが発生する可能性を低くすることで、結果的に会社にとってプラスになるということも多くあります。
ぜひ一度、弁護士との顧問契約のご検討をされてはいかがでしょうか。
法律事務所Zでは、日常的に企業の契約書レビューを行ってきた弁護士が複数在籍しており、これまでの経験を踏まえて、迅速かつ適切なチェックを行うことが可能です。また、どのポイントを特に重視すべきかという観点からのアドバイスも行っております。
契約書のチェックにお困りであれば、ぜひ一度、法律事務所Zにお問い合わせください。
![]() | この記事の執筆者:坂下雄思 アンダーソン・毛利・友常法律事務所入所後、野村綜合法律事務所への移籍、UCLA LLM修了、ニューヨーク州司法試験合格を経て、法律事務所Zに参画。同時に、自身の地元である金沢オフィスの所長に就任。労働事件では企業側を担当。 |
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