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「best efforts」の本当の意味は?―英文契約で見逃せない“曖昧な表現”とリスク管理

こんにちは。法律事務所Zの弁護士の坂下雄思です。
今回のテーマは「英文契約における表現」についてのお話です。

「英文契約ではよく”best efforts”と出てくるが、受け入れて大丈夫なのか?」
「”including, but not limited to”はどういう意味なのか?」

このようなお悩みを抱えている事業者の方も多いのではないでしょうか。

そもそも法律用語自体が難解な上に、英文でその内容が表現されるとなると、より複雑で意味を理解しにくくなってしまいます。

他方で、具体的な意味合いが分からなければ、不測のリスクを負うことにもなりかねませんので、内容は慎重に検討しなければなりません。

しかし、「よくある表現だから大丈夫だろう」、「テンプレートどおりだからよいのだろう」と安易に受け入れていないでしょうか。その安易な対応の中に、将来大きな紛争の火種となる「曖昧な表現」が潜んでいるかもしれないのです。

この記事では、英文契約で見逃せない“曖昧な表現”とリスク管理のポイントについて解説していきます。

「best efforts」は安易に受け入れてはならない

例えば、以下のような事例を考えてみましょう。

当社は、海外の商品を輸入して日本で販売する販売代理店として事業を行っています。
仕入先との契約で、商品の最低購入数量の箇所に「best efforts」と書かれていますが、商品がなかなか売れないので、その数量を購入するのが難しくなってきています。
当社は、どこまで努力すれば「best efforts」しているといえるのでしょうか?

「best efforts」は、日本語にすれば「最大限努力する」です。
こうしてみると、「できるだけ頑張って、ダメなら諦めても義務違反はない」ということとも思われます。

しかし、「できるだけ頑張る」というのは、いったいどこまで頑張ればいいのでしょうか。例えば、上記の例でいえば、「日本で商品を販売する努力をできる限りしたが、買手が見つからないので、最低購入数量をクリアできなくても義務違反はない」と言えるでしょうか。あるいは、お金がある限りは商品の最低購入数量をクリアしなければ「できるのに頑張っていない」と考えられてしまわないでしょうか。

英米法においては、「best efforts」という文言は、「どんな犠牲を払ってでもできるだけの努力を尽くす」と解されてしまう可能性が高いです。つまり、上記の会社は、日本では商品の売れ行きが悪いが、資力がある限り最低購入数量をクリアし続けなければ「best efforts」を尽くしていないとして、契約違反を追及されるリスクがあるのです。

そのため、「best efforts」という文言は、特に英米法を準拠法とする場合には、基本的に義務と同視して、履行できないのであれば受け入れてはならない、という方針が良いと考えられます。もし、「best efforts」を求める提案が相手からあった場合には、「reasonable efforts」や「commercially reasonable efforts」というような対案を提案しながら交渉を進めていくことが考えられます。

なお、努力義務の程度は、日本法準拠の場合でも注意しなければならない文言ではありますが、日本法上はその違いによってどれほどの程度の違いがあるかについての明確な結論は出ていないように思われます。

「including, but not limited to」も安易に受け入れてはならない

英文契約を見ていると、よく「including, but not limited to」という文言を見ます。

これは、日本語で言えば、「●●を含むが、これらに限られない」ということであり、つまり例示列挙であること(限定列挙ではないこと)を示しています。

契約書を作成していると、どのような事態が生じるかを予測しつくして契約書に盛り込むことは、極めて困難(あるいは不経済的)と考えられることが良くあります。その場合に、「including, but not limited to」という文言を使用して、そのような状況を打開することがあります。

例えば、「X shall comply all laws in Japan that apply to the sale of the Products, including but not limited to obtaining and maintaining all required governmental approvals and licenses.」という条項があったとしましょう。

この場合は、日本国内で適用されるあらゆる法令を遵守しなければならず、それには必要な許認可の取得・維持も含まれる、ということになり、日本で責任をもって商品を販売する必要のある立場にある販売代理店としては、受け入れざるを得ない(また、海外の仕入先としても、この点は日本の販売代理店に遵守してもらわないと困る)という性質のものであることが多いと思います。

このように、「including, but not limited to」という文言は便利なものですが、例示列挙であるという前提を忘れてしまって使い方を誤るとリスクを負うことになりかねませんので、十分な注意が必要です。例示列挙であることの性質上、「including, but not limited to」の前には「any」や「all」といった文言が出てくることが多いはずです。そのような文言がないときには、契約書をより一層注意して読む必要があるでしょう。

「material adverse effect」はどのようなものが該当するのか?

英文契約書では”material adverse effect”を生じさせるような行為は行ってはならないというような規定を見ることがあります。

”material adverse effect”というのは、日本語にすれば「重大な悪影響」ですが、「重大な」というのは、どの程度のものをいうのかについては、はっきりとしません。

そのため、可能であれば、どのようなものが「重大な悪影響」に該当するかについて、基準を設けることが考えられます。

また、「重大な悪影響」というのは、外部状況(契約当事者には関係のないところ)から発生した事象によりもたらされることもあります。そのような場合まで「重大な悪影響」に該当するとされてしまうと、想定と異なる結果を招来することになりかねません。

そのため、”material adverse effect”という文言を見かけた場合には、具体的にどのような事象を言うのか、また、これが発生した場合にどのようなリスクがあり得るのかということを考えながら、契約書の確認を行う必要があります。

英文契約書を社内だけで確認するのは労力が大きい

以上の他にも、英文契約書においては様々な表現が用いられるところであり、それらをチェックしながら英文契約書を理解して修正していくというのは非常に労力がかかります。

英文契約書に慣れていればある程度の対応ができるでしょうが、英文契約書に慣れるまでには相応の時間がかかり、そのような人材を社内で育成しようとするとコストも大きくなります。

ややもすると、相手方のひな型をそのまま受け入れてしまうことになってしまいますが、基本的に海外の取引先のひな型は当該取引先にとって非常に有利に作りこまれているので、そのまま締結してしまうと会社にとって不利な条件での取引を強いられることになりかねません。

英文契約対応を弁護士に依頼するメリット

グローバル化の進む社会において、海外との取引を増やすことは、ビジネスの発展のために必要不可欠になりつつあります。

そのような環境下で、「英文契約は難しいから」というような理由で海外との取引を避けていてはビジネスの発展を促進することが難しくなりますし、他方で「英文契約は相手の提示を受け入れよう」という方針ではリスクの取捨選択ができていないことになり、後々の紛争を招き結果として大きな損失をもたらすことになりかねません。

上記のとおり、英文契約書のチェックは、社内で行うにはリソースの問題から難しい会社があるということは理解できます。

そのような場合には、英文契約書のチェックの経験が豊富な弁護士に対応を依頼することが考えられます。弁護士をうまく活用することで、役職員は他の重要な問題に対処する時間を増やすことができるのです。

また、英文契約書のチェックを弁護士にお願いすることを通じて、自社での経験を増やしていくということも有益であると考えられます。

法律事務所Zでは、留学経験のある弁護士や英文契約のチェックを豊富に行ってきた弁護士が、英文契約についてのアドバイスを行うことが可能です。

英文契約対応にお困りであれば、ぜひ一度、法律事務所Zにお問い合わせください。

この記事の執筆者:坂下雄思

アンダーソン・毛利・友常法律事務所入所後、野村綜合法律事務所への移籍、UCLA LLM修了、ニューヨーク州司法試験合格を経て、法律事務所Zに参画。同時に、自身の地元である金沢オフィスの所長に就任。労働事件では企業側を担当。

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