
カスハラ(カスタマーハラスメント)対応とは?会社は何をすればよい?企業法務に精通した弁護士が解説
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組織には様々な特性をもった従業員がいます。どんな組織においても成果を出し続ける優秀な人材だけを集めるというのは難しく、一流企業であっても求められるレベルに対して、成果を出せない社員は一定数いるものです。今回は、こうした能力不足の社員への対応や解雇できるかについて、弁護士の視点で注意すべきポイントを解説します。
組織や集団における法則として「2-6-2の法則」という考え方があります。どんな集団でもパフォーマンスが良い人が2割、中くらいの人が6割、パフォーマンスが悪い人が2割という一定の割合で存在するという法則です。この解説では、この法則でいうところのパフォーマンスが悪い人、つまり会社の期待した成果を出せない、能力が低い人を「ローパフォーマー社員」と言います。
能力が低い社員といっても、具体的にどのような社員がローパフォーマー社員に該当するのでしょうか。一般的には、次の項目がローパフォーマー社員の判断基準となります。
人間である以上、どんなに優秀な人でもミスはしてしまいます。ただし、何度も同じミスを繰り返してしまうとなると、話は違います。一度発生したミスに対して、改善や防止しようという意識が欠如していたり、注意や指導した上司や先輩の話を理解できていなかったり、聞いていない可能性があります。
指示されたことはできるものの、指示したこと以外は全くできないという人もいます。自ら考えて動くという能力が欠けていて、業務プロセスを工夫して改善したり、自分なりに考えて作業効率を上げるということができないので、成長しません。自発的に周囲のサポートに入るということもしないので、チーム全体の生産性向上に貢献できません。
話が面白いとか、説明が上手いだけがコミュニケーション能力ではありません。組織においては、聞く力や理解する力も同じくらい重要で、上司や先輩の指示を正しく理解できずに、ミスに繋がるということがあります。また相手の話を聞かずに、一方的に自分の主張ばかりを述べてしまい、チームワークを乱すこともあります。
無断欠勤や遅刻が多い、仕事をサボる、業務と関係がないことを仕事中にしてしまうなど、シンプルに勤務態度が悪い社員です。
■ローパフォーマー社員はなぜ生まれるのか
ローパフォーマー社員となってしまう原因として、本人の特性を挙げられることが多いのですが、必ずしも原因は本人だけではありません。また、本人の性格などに起因してしまう場合、変化を促すのが困難な場合も多々あります。一方、外的な要因であれば、労務環境を変えることで、改善に向かう場合もあります。
①能力や特性と現在の部署が合っていない
極端な例えではありますが、コミュニケーション能力が高いのに事務作業中心の部署にいたり、クリエイティビティがあり制作業務が得意なのに営業部署にいるといった場合では、本人の能力や特性と業務内容がマッチせずに、高い成果を出せていないことがあります。
逆にある部署でとても優秀だった社員が、異動で業務内容が変わった途端にローパフォーマー社員になってしまうということもあるのです。
②部署内の人間関係や信頼関係に問題がある
上司との信頼関係が構築できておらず、コミュニケーションが足りていなかったり、部内のメンバーとの人間関係に問題があって孤立してしまっているなど、周囲の同僚との人間関係に起因してローパフォーマー社員になってしまうこともあります。
ローパフォーマー社員に対して対応せずに放置してしまった場合、どのようなリスクがあるでしょうか。
一般的な社員と比較すると、ローパフォーマー社員は生産性が低いという特徴があるため、改善しない状態が続けば部署や組織の生産性にも悪影響があります。
ローパフォーマー社員の業務や成果として足りない部分は、上司や周囲の同僚が補うということが往々にして起こり得ます。その場合、当然ながらサポートする側の社員の負担が増えることになります。ローパフォーマー社員の業務を周囲の社員が補填する状態を放置してしまうと、優秀な社員の不満が溜まっていき、最悪の場合ハイパフォーマー社員が離職してしまうという結果に至ることもあります。
ローパフォーマー社員の生産性を上げるための社員教育やマネジメントについては、本記事の趣旨ではないため言及しませんが、改善策を講じた結果として解雇するという判断に至った場合の注意点について、弁護士の立場から解説いたします。
前提として日本の労働法では、会社が一方的に労働者を解雇することは認められておりません。労働契約法の第16条において、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合における解雇は、無効と定められています。
これに対し、会社が従業員を説得し、従業員と合意のもとで雇用契約を終了することを「退職勧奨」と言います。従業員を退職させるという意味で、会社側の目的は同じですが、一方的な解雇と主張されないように、まずは適法な退職勧奨という形を取るのが良いでしょう。
退職勧奨を進める際に、適切な方法で行わないと「退職強要」に該当するので退職は無効であるとして社員から訴えられてしまうこともあります。そうならないために、以下のポイントを意識すると良いです。
一般的に退職勧奨は個別面談で行いますが、何度も繰り返し実施したり、長時間にわたって会議室に拘束してしまったりすると、「強要」と捉えられてしまいかねません。予め伝える事項や条件などは整理しておき、短い時間で終えることを心がけましょう。
ローパフォーマー社員ひとりに対し、会社側が複数名という構図になってしまうと、心理的圧迫感が強くなってしまいます。かといって、1対1も不透明性がありフェアな面談にならないことが懸念されますので、会社側は直属の上司と人事部門の管理職など、最少人数で実施するのが良いです。
社員自らが退職するという決断をすることを促すことが退職勧奨ですので、「会社を辞めろ」、「退職しろ」といった発言はNGです。加えて「退職しなければ減給する」、「退職しなければ降格する」といったように、社員本人が不利益となる条件を提示することも退職強要と捉えられる可能性があるため注意が必要です。
面談は最少人数で参加した上で議事録を残したり、場合によっては録音するなどして退職勧奨として適切な面談であるという証拠を残しておくと良いです。
逆に、社員も面談の内容を録音しているでしょうから、不用意な発言を控えることがとても重要になります。
退職勧奨がスムーズに進まなかった場合、ローパフォーマー社員であるというだけで解雇するのは、解雇要件として成立させることが難しいのが現実です。実際には、退職勧奨に至る前に適切なマネジメントを実施し、社員教育やスキルアップの支援、配置転換などによる充分な改善措置を講じたかなども重要になります。
解雇や退職が無効になってしまうと、解雇・退職としていた時期からこれまでの賃金・賞与を請求されることになり、裁判が長引き1~2年とかかると、1000万円以上の金銭を支払わなければならないということにもなりかねません。
また今の時代、問題社員への対応を間違えてしまうと、ネットやSNSなどで会社に対するネガティブな情報を発信されてしまい、それが事実無根であったとしてもネット上で拡散し、デジタルタトゥーとして会社にさらなる不利益をもたらすということも考えられます。
後々にトラブルに発展しないよう、ローパフォーマー社員の対応は早期に弁護士に相談した上で、適切な対策を実施することが求められます。法律事務所Zには、四大法律事務所出身の企業法務専門弁護士や企業内弁護士の経験者が多数在籍しておりますので、ローパフォーマー社員をはじめとする問題社員の対応についてもお気軽にご相談ください。
![]() | この記事の執筆者:坂下雄思 アンダーソン・毛利・友常法律事務所入所後、野村綜合法律事務所への移籍、UCLA LLM修了、ニューヨーク州司法試験合格を経て、法律事務所Zに参画。同時に、自身の地元である金沢オフィスの所長に就任。労働事件では企業側を担当。 |
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