
カスハラ(カスタマーハラスメント)対応とは?会社は何をすればよい?企業法務に精通した弁護士が解説
- クレーム対応
- 労務問題
- ハラスメント対応
10:00〜18:00 土日祝を除く
こんにちは。法律事務所Zの弁護士の坂下雄思です。
今回のテーマは「退職後の競業避止義務」についてのお話です。
「営業職のエースが退職するといっている。同じ業界で活動されると困るのだが。」
「退職者が独立して当社の顧客を引き抜いているらしい。何か取れる手段はないのか?」
このようなお悩みを抱えている会社は多いのではないでしょうか。
会社で活躍していた社員が退職するとなると、人材流出という点でも会社に与えるインパクトは大きいです。それに加えて競合他社に転職する・独立するなどでライバル関係になると、更に会社に影響を及ぼす可能性があります。
この記事では、そのような問題にどのように対処すればよいのかのポイントをご説明します。
例えば、以下のような事例を考えてみましょう。
当社はコピー機の販売会社として活動していますが、営業職の従業員が退職すると伝えてきました。 当該従業員は、どうやら新しく自分で会社を立ち上げる予定らしく、当社の従業員を勧誘したりしています。また、当社の顧客に営業をかけられると困ってしまいます。 会社として、どのように対応すればよいのでしょうか。 |
目次
競業避止義務とは、一定の事業について、競争行為(競業行為)を差し控える義務をいいます。
退職者は、会社のノウハウを頭の中に持ったまま退職するので、会社のノウハウを用いてビジネスを始める、同業他社に転職して営業活動を行うといった可能性があり、結果として会社のビジネスが害されてしまう可能性があります。
このような状況を防止するためには、競業避止義務を負わせる(競業会社への転職を阻止し、情報の流出を防ぐ)ということが有効です。
上記のように競業避止義務は会社を守るうえでは重要なものですが、退職後の競業避止義務は当然には発生しないと考えられています。
つまり、会社として何もしなければ同業他社に転職されてしまうことを全く防げないことになるのです。
したがって、会社としては競業避止義務の必要性を踏まえつつ、対象としたい従業員に競業避止義務を負わせることが重要になります。
上述のとおり、退職後の競業避止義務は当然には発生しません。
そのため、従業員との間で競業避止義務に関する合意をしたりする必要があります。
具体的には
ということが考えられます。
上記①の方法は、実際に辞める場面になってから書面を取り交わすというのは困難ですので、入社時などに取り交わすのが現実的です。しかし、入社時にはどのような競業避止義務を課すべきかについては抽象的にならざるを得ず、実効性がない可能性もあります。
上記②の就業規則に定めるという方法であれば、書面を取り交わさなくとも、従業員に一律に適用しながら競業避止義務を課すことが可能になります。
実際には、上記①と②を組み合わせながら対策を講じるのが良いでしょう。
競業避止義務は合意したりできればどんなものでも有効かというと、そうではありません。
競業避止義務は、従業員の人権としての職業選択の自由に制約を加えるものです。従業員の職業選択の自由は、
という二面性があるので、過度な競業避止義務を課すと無効になる可能性があります。
裁判例を踏まえると、競業避止義務の有効性の判断のポイントは以下のとおりです。なお、以下の要素を総合考慮して、競業避止義務の有効性が判断されることになります。
競業避止を必要とする使用者の正当な目的というのは、企業の利益を保護し、公正な競争環境を維持するための営業情報、技術、ノウハウ等の流出を守ることと考えられます。
このような目的もなく競業避止義務を課すのは認められないことが多いでしょう。
競業避止の対象となる行為としては、競業他社への転職、競業企業の設立、顧客情報の持出し・引抜き等が考えられます。
なるべく幅広に禁止したいところですが、目的との関係で不必要な行為まで禁止すると、広範な競業避止義務として無効になる可能性が高まります。
競業避止の地理的範囲というのは、どの地域で競業を禁止するかという問題です。
例えば、同じ市町村なのか、同じ都道府県なのか、一定の地方なのか、日本全国なのかということです。
ある都道府県でしか営業していないのに、日本全国での競業を禁止するというのは、過度に広範なものとして無効になる可能性が高まります。
競業避止の期間は、長ければ長いほど会社にとっては有利ですが、競業避止義務を課せられる個人には強い制約になります。
目的との関係でどの程度の長さにするかを考える必要があります。
在職中の従業員の地位は、「その従業員に競業避止義務を課す必要があるのか」という観点から検討することになります。
例えば、会社のノウハウ・機密情報に触れるような立場にあった従業員に対しては競業避止義務を課す必要性が高いことになると考えられます。
代償措置というのは、競業避止義務を課すことに対しての見合い(対価)のようなものです。
競業避止義務の有効性を基礎づける方向性で働く事情になりますので、例えば退職金をおおめに払う等を検討することになります。
競業避止義務に違反した場合には、損害賠償請求をする、退職金の不支給/減額とする、というような対応方法が考えられます。
しかし、競業避止義務に違反したとしても、損害の立証が困難な場合も多いので、違約罰(違反したら一定の金額を支払うという内容)を定めておくことも考えられます。
以上のように、競業避止義務は無効になるリスクがあるなど、必ずしも万能なものではありません。
そのため、秘密保持義務をあわせて利用することが考えられます。企業の重要な情報は秘密情報として取り扱われるべきものが多く、競業避止義務で流出を防止したい情報は秘密情報に含まれることが多いからです。
また、秘密保持義務は、一般的に有効であると考えられますので、向こうのリスクが低いというのも使いやすいポイントです。
しかし、以下のとおりいくつか注意すべき点があります。
秘密保持義務は、在職中の従業員は当然に負うと考えられていますが、退職後についてはその範囲を明確にするうえでも別途定めたほうが良いと考えられます。
その定め方としては、就業規則に定めるか、合意書・誓約書を取り交わすということが考えられます。
なお、競業避止義務であれば合意書・誓約書の作成に抵抗がある従業員がいるかもしれませんが、秘密保持義務であれば抵抗が少ないと考える従業員も多いと思います(どうせ作成しなくても一定の範囲で秘密保持義務を負うことになるからです。)。
秘密保持義務に違反した場合には、差止請求や損害賠償を請求するということが考えられます。
しかし、損害賠償請求においては、損害が具体的に発生したことを立証するのは難しいことが多いです。
そのため、秘密保持義務に違反しないように十分警告しておくということが重要です。
なお、在職中の従業員であれば、懲戒処分を行うことも考えられます。
別の会社の設立準備をしている従業員が、在職中に他の従業員を勧誘することは許されるのでしょうか。
従業員は、労働契約において誠実義務を負っているので、社会的相当性を逸脱するような態様であれば誠実義務違反が成立すると考えられます。
他方で、退職後にはそのような義務はなくなるので、他社の従業員に対する勧誘は原則として自由です。
しかし、単なる転職の勧誘の域を超えるような態様での引き抜き行為は、自由競争の範囲内とは言えないものとして、不法行為が成立する可能性があります。
退職後については、競業避止義務の一内容として、引抜き禁止の義務を定めておくのが良いと考えられます。
冒頭の例だと、
という対応が考えられます。
以上のように、競業避止義務対応については、有効・無効の判断が難しく、また、秘密保持義務などとの組み合わせも考えなくてはならず、対応が複雑になります。
合意書・誓約書を準備する必要がありますし、場合によっては就業規則の変更も必要になります。
対応に困った場合には、早期に弁護士に相談し、対応を依頼することで、随時的確なアドバイスを受けることができ、事後的な紛争リスクを低減させることができると考えられます。
また、不幸にも裁判になってしまった場合でも、早期の段階から弁護士に対応の依頼をしておくことで、事実関係を整理した一貫した態度をとることができ、また、証拠のことを常に意識した対応をしてもらうことが期待できますので、裁判上不利な状況になるのを避けることができるはずです。
特に、対応・交渉中に主張がブレてしまい、裁判でその点を指摘されると、裁判官にもよくない印象を与えかねないため、一貫した態度をとることは非常に重要であると考えております。
法律事務所Zでは、企業様からのご相談に対応してきた経験を踏まえて、競業避止義務についての事後的な対応はもちろん、競業避止義務の検討にあたりリスク回避のためのアドバイスを行うことが可能です。
競業避止義務についての対応にお困りであれば、ぜひ一度、法律事務所Zにお問い合わせください。
![]() | この記事の執筆者:坂下雄思 アンダーソン・毛利・友常法律事務所入所後、野村綜合法律事務所への移籍、UCLA LLM修了、ニューヨーク州司法試験合格を経て、法律事務所Zに参画。同時に、自身の地元である金沢オフィスの所長に就任。労働事件では企業側を担当。 |
広告責任者: 弁護士法人Z(第一東京弁護士会)
Copyright© 法律事務所Z 金沢オフィス. All Rights Reserved.