金沢弁護士会所属

050-1791-5255

10:00〜18:00 土日祝を除く

私傷病休職・復職対応について、企業法務に精通した弁護士が解説

こんにちは。法律事務所Zの弁護士の坂下雄思です。
今回のテーマは「私傷病休職・復職対応」についてのお話です。

「私傷病休職制度を作ろうと思うが、どんな制度にしたらよいのか?」
「復職を希望する社員がいるが、会社としては復職させられる状態にはないと考えている。復職させなければならないのか?」
このようなお悩みを抱えている会社は多いのではないでしょうか。
この記事では、私傷病休職・復職について、どのように対処すればよいのかのポイントをご説明します。
例えば、以下のような事例を考えてみましょう。

当社には私傷病休職制度があります。
今回、休職中の正社員が休職期間の満了に伴い復職を要求しています。
当社としては治癒したとは考えておらず、再発の可能性が高いため、退職扱いにしたいのですが、問題ないでしょうか。

私傷病休職制度とは

私傷病休職制度とは、業務とは関係なく病気になったりケガをしたりして、労働ができなくなったときに、労働を一定期間免除し、その期間中に回復すれば復職とする、あるいはその期間満了時に回復していなければ退職扱いとする、というものです。

このように、私傷病休職制度は、解雇を猶予するものとして機能し、従業員にとっては一種の福利厚生的なものになります。

私傷病休職制度設計のポイント

私傷病休職制度は福利厚生的なものですので、会社が自由に制度を設計することができます。
具体的には、就業規則や私傷病休職規程などで定めることになりますが、自由度が高いため制度設計が非常に重要になります。

以下では、私傷病休職制度の制度設計のポイントについて説明します。

対象者

私傷病休職制度の対象者は、会社が自由に設定できます。
そのため、例えば正社員に限るということも考えられますし、勤続年数が一定期間を超える正社員を対象とすることも考えられます。
どのような従業員に対して私傷病休職制度を利用させたいかという観点から考える必要があります。

休職期間

私傷病休職制度を導入する場合には、休職期間を決めておくことが非常に重要です。
なぜなら、その期間が解雇の猶予期間ということになるからです。
また、その期間が満了する際に復職可能性を判断することになるという点でも重要になります。
例えば、私傷病の事由によって休職期間を変える、勤続年数に応じて休職期間を変えるということが考えられます。

休職中の処遇

私傷病休職中は、賃金を支払わなくてはならないのでしょうか。
原則としては、労務の提供がないので、無給として問題なく、賞与についても支給対象期間から除外することができます。
しかし、福利厚生的な見地から、一定の期間は給料を支払うという制度にすることも考えられます。
従業員が安心して働ける制度を構築するという観点と、会社の経営に与える影響とを考えながら、どのような制度にするのが良いかを考えていく必要があります。
なお、従業員間での不平等を生まないためにも、規則で定めたら画一的に運用していくということが重要でしょう。

復職の見極め

休職期間が満了する際には復職が可能かを判断しなければなりません。
その際に参考にすべきは医師の意見ですが、どのような医師の意見かということも気にしなくてはなりません。
例えば、従業員の主治医の意見を信用できないと思っている場合には、会社の指定する医師の意見も確認したいと考えることもあるでしょう。
そのような場合に、会社の指定する医師の診断を受けさせられるような規程を作っておくことが重要です。
また、復職は会社が判断する事項ですので、そのことを規程に明示しておくことも従業員との間で無用な争いを避ける一つの方法です。

リハビリ勤務の条件

従業員が原職に復帰するのは難しいが、軽易な業務であれば復帰できるという場合に、リハビリ勤務を認めるということもあります。
そのような場合に、軽易な業務なのに従前と同じだけの賃金を支払わなくてはならないのかという問題が生じます。
具体的にどのような取り扱いが許容されるかは会社の制度にもよるのですが、リハビリ勤務についても規程に盛り込んでおき、従業員との間で考え方に食い違いが出ないようにしておくのが良いと思います。

復職のポイントとQ&A

復職の際によく問題となる事項について、いくつか解説します。
この他にも問題は多く発生しますので、個別に考えていく必要があることにご注意ください。

以前の職務への復帰が難しい場合は?

事例

復職を希望する正社員がいるのですが、原職が原因で休職になってしまったので別の業務に配置されることを希望しています。
別の業務に配置しなければなりませんか?また、短時間勤務での復帰を希望している正社員もいるのですが、応じる必要がありますか?

解説

◆別の業務について
①職種や業務内容の特定がない場合は、②能力、経験、地位、当該企業の規模、業種、当該企業における労働者の配置・異動の実情及び難易に照らして当該労働者が配置される現実的可能性があると認められる他の業務について労務の提供をすることができ、かつ③その提供を申し出ている場合には、復職させる義務があるという考え方が判例で示されています。
したがって、別の業務で勤務できないかを検討しなければならないことになります。

◆短時間勤務・軽易業務について

短時間勤務・軽易業務に就ける場合には、①休職期間満了後に、②休職前の業務ができなくてもほどなく通常の業務に復帰できるのであれば、短時間勤務・軽易業務・休職期間延長により、労働契約終了を避けるべきと考えられています。
したがって、できる限り解雇を避ける配慮をしなければなりません。

復職を要求している社員は復職させなければならないのか?

事例

休職中の正社員が休職期間の満了に伴い復職を要求しています。
当社としては治癒したとは考えておらず、再発の可能性が高いため、退職扱いにしたいのですが、問題ないでしょうか。

解説

まず、復職が可能かの判断はあくまでも会社が行う(従業員の判断ではない)と定めておくことが重要です。
しかし、会社が判断できるとしても、治癒しているのに「治癒していない」として退職させてしまうと退職が無効になります。
また、再発の可能性があったとしても、当該時点で治癒しているとすれば、復職の要件を満たすので、復職させなければなりません。
このように、治癒の判断は慎重に行う必要があります。また、会社として適切な判断ができるように、会社の指定する医師の診断書の取得が望ましいと考えられます。

私傷病休職・復職対応を弁護士に依頼することのメリット

以上のように、私傷病休職・復職対応については、制度設計において考えるべきポイントが多いほか、実際の制度の運用においても判断が難しい問題が多く発生します。
私傷病休職は、従業員にとっては職を失うということに結び付く問題ですので、非常にセンシティブになることが予想され、紛争に発展するリスクも高いです。
そのため、私傷病休職・復職対応については、なるべく早く弁護士にご相談されることをお勧めします。

また、実際に対応に困った場合には、早期に弁護士に相談して対応を依頼していれば、随時的確なアドバイスを受けることができ、事後的な紛争リスクを低減させることができます。不幸にも裁判になってしまった場合でも、早期の段階から弁護士に対応の依頼をしておくことで、事実関係を整理した一貫した態度をとることができ、また、証拠のことを常に意識した対応をしてもらうことが期待できますので、裁判上不利な状況になるのを避けることができるはずです。

特に、対応・交渉中に主張がブレてしまい、裁判でその点を指摘されると、裁判官にもよくない印象を与えかねないため、一貫した態度をとることは非常に重要であると考えております。

法律事務所Zでは、企業様からのご相談に対応してきた経験を踏まえて、私傷病休職・復職対応についての事後的な対応はもちろん、私傷病休職・復職の制度の検討にあたりリスク回避のためのアドバイスを行うことが可能です。

私傷病休職・復職対応にお困りであれば、ぜひ一度、法律事務所Zにお問い合わせください。

この記事の執筆者:坂下雄思

アンダーソン・毛利・友常法律事務所入所後、野村綜合法律事務所への移籍、UCLA LLM修了、ニューヨーク州司法試験合格を経て、法律事務所Zに参画。同時に、自身の地元である金沢オフィスの所長に就任。労働事件では企業側を担当。

お問い合わせ

ご予約はこちらから

050-1791-5255

10:00〜18:00 土日祝を除く

お問い合わせフォーム