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指示に従わない社員は解雇できますか?~弁護士がモンスター社員の対応と注意点を解説~

組織には様々な特性をもった従業員がいます。どんな組織においても成果を出せない社員や問題がある社員は一定数いるものです。これまで、「ローパフォーマー社員」や「協調性のない社員」の対応について解説してきましたが、今回は、「指示に従わない」社員への対応や解雇できるかについて、弁護士の視点で注意すべきポイントを解説します。

労働契約について

正社員、契約社員、アルバイト、パートタイマーなど雇用形態にかかわらず、雇われて働く人を「労働者」、労働者を雇って指揮命令する人を「使用者」と言います。

書面での契約書の有無に関係なく、労働者が使用者の指揮命令の下で働き、使用者から賃金を受け取る場合には、労働者と使用者との間で労働契約を結んだこととなります。労働契約を結ぶことによって、労働者は労務を提供する義務を負い、使用者は賃金を支払う義務を負うこととなります。

誠実労働義務とは

では、労働者は、労働契約に基づいて出勤さえしていれば良いのでしょうか。例えば、上司の指示を無視し続けてデスクで居眠りをしていたり、業務と関係のない本を読み続けながら仕事をするなどしていた場合は、労務を提供する義務を果たしていると言えるでしょうか。

労働者は労務を誠実に提供する義務があります。これを「誠実労働義務」と言います。例え、上司の指示や会社の考え方に納得ができなかったとしても、それらが違法でない限りは、使用者の指示に従って誠実に労務を提供するという義務が労働者にはあるのです。

注意指導のポイント

社員が誠実労働義務を果たさずに業務命令に反している場合、それを理由に解雇することはできるでしょうか。これまでの記事でも解説してきましたが、日本の労働法では、会社が自由に労働者を解雇することは認められておりません。労働契約法の第16条において、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合における解雇は、無効と定められています。

いきなり解雇を検討する前に、まずは問題社員に対して適切な注意指導を行いましょう。注意指導を行う際には、以下のポイントを意識するとよいでしょう。

業務命令違反があったらすぐに(都度)注意指導をする

極端な例ではありますが、「半年前のあの態度なんだけど・・・」と指導された場合、どう感じるでしょうか。「なんで今更?」と反感を覚えるかもしれませんし、そもそも問題行動自体を忘れてしまっているかもしれません。

指導を行う際は、他の従業員の前を避けたり、タイミングに一定の配慮は必要ですが、業務指示違反が発生したら時間を空けずに指導をするのがよいです。

業務命令違反の行為について具体的に示した上で、注意指導をする

「あなたは業務命令に従っていないので改めてください」と注意するだけでは、何が問題で何を注意されているのかが伝わらず、改善に繋がりにくいです。従業員に対してどのような指示を出していて、どのような行為が指示違反だったのかを具体的に示しながら注意指導を行いましょう。

注意指導の内容を記録に残す

口頭で指導しただけだと、注意されたことを忘れてしまったり、後から復習ができないこともあります。口頭での指導に加えて、可能であれば指導書や警告書を作成し交付する、それが難しい場合でも、メールやチャットなど指導内容を振り返ることができる形で残しておくと良いです。

注意指導で改善されずに、懲戒処分や解雇を検討する際にも、「適切な注意指導を行ったにも関わらず、改善しなかった」という記録(証拠)が残っていることが望ましいです。

人格を否定、非難しない

注意指導を行う際に、人格を否定したり名誉を毀損するような発言をしてしまうと、パワハラに該当してしまう可能性があります。その場合、懲戒処分や解雇が難しくなるだけでなく、従業員側から損害賠償を請求されるということも考えられます。

業務命令違反による懲戒処分が認められるためには

注意指導を繰り返し行ったにもかかわらず、社員の態度に改善が見られない場合、懲戒処分を検討しましょう。懲戒処分が認められるためには、次の5つの要件を充足しているかがポイントとなります。

業務命令が有効である

使用者は労働契約や合理的な就業規則に基づく相当な範囲において、労働者に対して業務命令を下すことができます。業務命令の根拠となる就業規則が合理的で、業務命令に必要性があり、業務命令が相当な範囲のものと認められる場合、業務命令は有効となります。

一方で、労働者が業務命令に従うことで、労働者自身に著しい不利益が生じる場合や、業務命令の内容に違法性がある場合には、無効となる可能性があります。

業務命令違反の事実が存在する

当然ながら業務命令違反の事実が存在しなければ、懲戒処分が認められることはありません。具体的な業務命令の内容や、それに対してどのような違反があったかを示すことができる資料や記録があるとよいです。

就業規則に懲戒事由として規定されている

懲戒処分を行うためには、懲戒事由と懲戒の種類が就業規則上明記されている必要があります。

懲戒処分の程度が相当である

懲戒処分の内容は、該当の行為に対して社会通念上相当である必要があります。業務命令違反が認められたとしても、懲戒処分の程度が行為に対して重すぎると判断される場合には、無効となる可能性があります。

懲戒手続が適正である

労働契約や就業規則にて、懲戒処分にあたって賞罰委員会の開催や労働者への弁明機会の付与が必要とされている場合、これらの手続きを取る必要があります。

退職勧奨について

懲戒処分において、最も重い処分は懲戒解雇ですが、業務命令違反に対する処分として懲戒解雇が社会通念上の相当であることが認められるのは、過去の判例を見ても難しいと言えます。では、業務命令に従わない問題社員は雇用し続けなければならないのでしょうか。

従業員を退職させる方法は、懲戒解雇だけではありません。従業員と合意のもとで雇用契約を終了することを「合意退職」と言い、退職に向けて従業員を説得することを「退職勧奨」と言います。従業員を退職させるという意味で、会社側の目的は同じですが、無効な解雇と主張されないように、まずは合意退職を目指して適法な退職勧奨という形を取るのが良いでしょう。

退職勧奨の進め方については、こちらの記事で詳しく解説しています。

業務命令違反での懲戒処分は弁護士に相談を

これまで解説してきたとおり、懲戒処分においては、その妥当性を慎重に判断する必要があります。実際には懲戒処分に至る前に、適切な指導やマネジメントを実施し、社員教育やスキルアップの支援、配置転換などによる充分な改善措置を講じたかなども重要になります。

懲戒処分が無効になってしまうと、過去に遡って賃金や賞与、慰謝料を請求されることがあります。裁判が長引き1~2年かかった場合では、1000万円以上の金銭を支払わなければならないということにもなりかねません。

また今の時代、問題社員への対応を間違えてしまうと、ネットやSNSなどで会社に対するネガティブな情報を発信されてしまい、それが事実無根であったとしてもネット上で拡散し、デジタルタトゥーとして会社にさらなる不利益をもたらすということも考えられます。

後々にトラブルに発展しないよう、業務命令に従わない問題社員への対応は早期に弁護士に相談した上で、適切な対策を実施することが求められます。

法律事務所Zには、四大法律事務所出身の企業法務の経験豊富な弁護士や企業内弁護士の経験者が多数在籍しておりますので、問題社員の対応についてもお気軽にご相談ください。

この記事の執筆者:坂下雄思

アンダーソン・毛利・友常法律事務所入所後、野村綜合法律事務所への移籍、UCLA LLM修了、ニューヨーク州司法試験合格を経て、法律事務所Zに参画。同時に、自身の地元である金沢オフィスの所長に就任。労働事件では企業側を担当。

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