
不当解雇とは?要件と対策について、企業法務に精通した弁護士が解説!
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組織には様々な特性をもった従業員がいます。どんな組織においても成果を出せない社員や問題がある社員は一定数いるものです。これまで、「ローパフォーマー社員」や「協調性のない社員」、「指示に従わない社員」の対応について解説してきましたが、今回は「無断欠勤や遅刻をする社員」への対応や解雇できるかについて、弁護士の視点で注意すべきポイントを解説します。
目次
正社員、契約社員、アルバイト、パートタイマーなど雇用形態にかかわらず、雇われて働く人を「労働者」、労働者を雇って指揮命令する人を「使用者」と言います。
書面での契約書の有無に関係なく、労働者が使用者の指揮命令の下で働き、使用者から賃金を受け取る場合には、労働者と使用者との間で労働契約を結んだこととなります。労働契約を結ぶことによって、労働者は労務を提供する義務を負い、使用者は賃金を支払う義務を負うこととなります。
労働者が正当な理由なく遅刻や早退、欠勤などを繰り返す状態を勤怠不良と言います。勤怠不良が続いている状態は、労務提供という労働契約における最も基本的な義務を怠っているということですので、重大な債務不履行になります。
組織の中にこのような社員がいると業務に影響が出ることはもちろん、社内の士気が下がり周囲の社員のモチベーションが低下するといった悪影響も出てきますので、適切に対処することが求められます。
勤怠不良の社員への対応は、原因が何かによって対応が異なります。まずは、勤怠不良の理由を本人にヒアリングするところから始めましょう。
勤怠不良が生じる原因として、うつ病などのメンタル不調に起因する場合があります。うつ病からは、不眠や過眠などの睡眠障害、気持ちの落ち込みによって出勤時間になっても動くことができないといった症状が出ることがあります。この場合、まずは産業医などに相談して適切な診察と治療を受けることが必要です。
うつ病などのメンタル不調以外にも、家族が病気などの家庭の事情や、同僚から嫌がらせを受けているなど社内環境に原因があることも考えられます。
一方、特別な事情がないにも関わらず、勤怠不良を続ける社員に対しては、適切な注意指導や段階的な懲戒処分などを経て、それでも改善しない場合は解雇を検討するという流れになります。本記事においては、後者の特別な事情がないケースへの対応の流れについて、解説していきます。
特別な事情がなく勤怠不良を続ける社員は、それを理由に解雇することはできるでしょうか。これまでの記事でも解説してきましたが、日本の労働法では、会社が自由に労働者を解雇することは認められておりません。労働契約法の第16条において、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合における解雇は、無効と定められています。
いきなり解雇を検討する前に、まずは問題社員に対して適切な注意指導を行いましょう。注意指導を行う際には、以下のポイントを意識するとよいでしょう。
極端な例ではありますが、「半年前のあの遅刻なんだけど・・・」と指導された場合、どう感じるでしょうか。「なんで今更?」と反感を覚えるかもしれませんし、そもそも遅刻したこと自体を忘れてしまっているかもしれません。
指導を行う際は、他の従業員の前を避けたり、タイミングを見計らうなど一定の配慮は必要ですが、勤怠不良が発生したら時間を空けずに指導をするのがよいです。
「遅刻しないでください」と注意するだけでは、本人が何を改善すれば良いのかがイメージできずに、すぐに改善に繋がらないことがあります。「就業時間の○分前には出社してタイムカードの打刻を完了させましょう」とか「何時発の電車に乗りましょう」など具体的なアクションを指示するとよいです。
また、遅刻や欠勤をする際は、事前に上長や上司に対して、事前に報告する社内ルールがあるかと思いますが、ルールに反して無断で遅刻や欠勤をする場合は悪質性が高いです。事前に報告するように行動の改善を促しましょう。
口頭で指導しただけだと、注意されたことを忘れてしまったり、後から復習ができないこともあります。口頭での指導に加えて、可能であれば指導書や警告書を作成し交付する、それが難しい場合でも、メールやチャットなど指導内容を振り返ることができる形で残しておくと良いです。
注意指導で改善されずに、懲戒処分や解雇を検討する際にも、「適切な注意指導を行ったにも関わらず、改善しなかった」という記録(証拠)が残っていることが望ましいです。
注意指導を行う際に、人格を否定したり名誉を毀損するような発言をしてしまうと、パワハラに該当してしまう可能性があります。その場合、懲戒処分や解雇が難しくなるだけでなく、従業員側から損害賠償を請求されるということも考えられます。
注意指導を繰り返し行ったにもかかわらず、社員の勤怠に改善が見られない場合、懲戒処分を検討しましょう。懲戒処分が認められるためには、次の4つを充足しているかがポイントとなります。
当然ながら遅刻や欠勤の事実が存在しなければ、懲戒処分が認められることはありません。具体的な勤怠不良の内容や回数、それに対してどのような指導を行なったかを示すことができる資料や記録があるとよいです。
懲戒処分を行うためには、懲戒事由と懲戒の種類が就業規則上明記されている必要があります。
懲戒処分の内容は、社会通念上相当である必要があります。勤怠不良が認められたとしても、懲戒処分の程度が行為に対して重すぎると判断される場合には、懲戒処分が無効となる可能性があります。
労働契約や就業規則にて、懲戒処分にあたって賞罰委員会の開催や労働者への弁明機会の付与が必要とされている場合、これらの手続きを取る必要があります。
懲戒処分において最も重い処分は懲戒解雇ですが、過去の裁判例では勤怠不良に対する処分として懲戒解雇が認められるケースと認められないケースがあります。
例えば、遅刻の回数が少なく、社会通念上相当とまでは言えなかったり、他にも勤怠不良が該当する従業員がいるにも関わらず、特定の従業員だけが処分の対象になっているような場合は、懲戒解雇が無効となることがあります。解雇するためには、解雇が酷とは言えないような遅刻などの勤怠不良が必要と考えられます。
逆に、繰り返し注意しているにも関わらず、改善されず理由なく遅刻を続けていたり、たびたびの長期欠勤がみられるケースでは、解雇が有効になることがあります。
また、従業員を退職させる方法は、懲戒解雇だけではありません。従業員と合意のもとで雇用契約を終了することを「合意退職」と言い、退職に向けて従業員を説得することを「退職勧奨」と言います。従業員を退職させるという意味で、会社側の目的は同じですが、無効な解雇と主張されないように、まずは合意退職を目指して適法な退職勧奨という形を取るのが良いでしょう。
退職勧奨の進め方については、こちらの記事で詳しく解説しています。
これまで解説してきたとおり、懲戒処分においては、その妥当性を慎重に判断する必要があります。実際には懲戒処分に至る前に、適切な指導やマネジメントを実施するなど充分な改善措置を講じたかなども重要になります。
懲戒処分が無効になってしまうと、過去に遡って賃金や賞与、慰謝料を請求されることがあります。裁判が長引いて1~2年かかった場合では、1000万円以上の金銭を支払わなければならないということにもなりかねません。
また今の時代、問題社員への対応を間違えてしまうと、ネットやSNSなどで会社に対するネガティブな情報を発信されてしまい、それが事実無根であったとしてもネット上で拡散し、デジタルタトゥーとして会社にさらなる不利益をもたらすということも考えられます。
後々にトラブルに発展しないよう、勤怠不良が改善されない問題社員への対応は早期に弁護士に相談した上で、適切な対策を実施することが求められます。
法律事務所Zには、四大法律事務所出身の企業法務の経験豊富な弁護士や企業内弁護士の経験者が多数在籍しておりますので、問題社員の対応についてもお気軽にご相談ください。
![]() | この記事の執筆者:坂下雄思 アンダーソン・毛利・友常法律事務所入所後、野村綜合法律事務所への移籍、UCLA LLM修了、ニューヨーク州司法試験合格を経て、法律事務所Zに参画。同時に、自身の地元である金沢オフィスの所長に就任。労働事件では企業側を担当。 |
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