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英文秘密保持契約(NDA)の解説:交渉で見逃せない3条項

海外企業との商談や技術提携において、最初に締結される契約が「秘密保持契約(Non-Disclosure Agreement)」(以下「NDA」といいます。)です。
NDAは比較的シンプルな契約書と思われがちですが、実は注意点が多い契約でもあります。特に英文NDAは、日本企業にとってリスクの見逃しやすい落とし穴が多く、注意が必要です。

この記事では、英文NDAの基本構造とともに、実務で見逃してはいけない3つの重要条項を解説します。

1. 英文NDAの基本構造

一般的な英文NDAは、概ね以下のような構成をとります。

  • 定義条項(Definitions)
  • 秘密保持(Confidentiality)
  • 除外事項(Exceptions)
  • 契約期間(Term)、存続期間(Survival)
  • 差止・損害賠償(Injunctive Relief / Damages)
  • 準拠法・紛争解決(Governing Law & Dispute Resolution)

以下、個別にその内容を見ていきましょう。

2. 交渉で見逃せない3つの条項

① 定義条項(Definitions)

定義条項は特に確認しなくてもよいだろうと考えてはなりません。NDAでは、何が「秘密情報」なのかを正確に定義することが第一歩です。
例えば、書面で開示された情報だけではなく、口頭で開示された情報も「秘密情報」なのでしょうか?書面で開示された情報についても、「厳秘」などの表示がなくとも全部「秘密情報」なのでしょうか?
情報開示者としては「秘密情報」の範囲をなるべく広くしたいと考える一方で、情報受領者としては「秘密情報」の範囲をなるべく狭くしたいと考えるので、定義レベルで議論が生じることがよくあります。そのため、しっかりと確認を行う必要があります。
また、NDAの締結前から事実上情報のやり取りがなされることがありますが、そのような場合には、”whether before, on or after the date of this Agreement”というような形で、NDA締結前の情報も対象であることを明確にしておくことが考えられます。

② 秘密保持義務(Confidentiality)

秘密保持契約ですので、「目的外使用の禁止」が含まれているかを必ず確認する必要があります。
また、NDAは法人間で締結されることが多いですが、法人における内部共有の範囲(役職員、外部専門家など)についてどのように考えるかは非常に重要なポイントです。
法人の役員や従業員に対する開示は許容されることが多いですが、非常に機微な情報を取り扱う場合には、役員や従業員の中でもさらに範囲を絞って規定することが考えられます。
また、子会社や関連会社、それらの役職員についても、共有が可能なようにしておく必要がないか確認・検討する必要があります。
他方で、情報提供者としては、無限定に秘密情報が共有されることは法人内部であってもできる限り制限したいところですので、共有を認める範囲についてはしっかりと確認する必要があります。また、情報受領者が情報を開示した役員や従業員に対しては、当該NDAと同等の義務を課すという形にしておき、それらの者に何かの違反があれば情報受領者の責任とする旨を規定することも検討が必要です。

なお、よくあるNDAのミスとして、裁判所等の公的機関からの要請により開示する場合を秘密情報の例外として定めるものがあります。秘密保持義務の例外として定める必要があるので、注意するようにしてください。

③ 契約期間(Term)、存続期間(Survival)

まず、NDAは義務を課す契約ですので、契約期間の定めを置くのが一般的です。契約を締結してから何年間という形で定める場合や、一定の目的を達した場合に終了すると定める場合など、当該NDAを締結する理由により様々なパターンがあります。
次に検討すべきは、契約期間が終了した後の秘密保持義務の存続期間です。契約が終わればすぐに秘密保持義務から解放されると考えると、情報受領者は新鮮な(陳腐化していない)情報を秘密保持義務なく利用することができるようになりかねず、情報提供者としては自らの情報の有用性を保持することができなくなる可能性があります。そのため、NDAでは、契約終了後も一定期間は秘密保持義務が存続すると規定するのが一般的です。
なお、時折、秘密保持義務を無期限とするよう要求されることもありますが、情報受領側からすると無期限の義務というのは受け入れにくいのが通常です。情報の陳腐化のサイクルも踏まえながら期間を設定していくことが重要です。

 

3. その他の留意すべき条項

① 除外事項(Exceptions)

秘密情報から除外されるものとしてよく規定されるのは、以下のとおりです。
(1) 開示された時点で、情報受領者が了知していた情報
(2) 開示された時点で、公知であった情報
(3) 開示された後に、情報受領者の責に帰すべき事由によらずに公知となった情報
(4) 開示当事者に対して秘密保持義務を負わない正当な権限を有する第三者から、情報受領者が秘密保持義務を負うことなく適法に取得した情報
(5) 情報受領者が独自の開発活動により取得した情報

除外規定が置かれているか、置かれている場合にはその内容は適切かという観点からチェックする必要があります。

② 差止救済条項(Injunctive Relief)

秘密保持義務違反があった場合には、金銭賠償で事後的な救済を求めるということも考えられますが、損害額の立証に困難を伴う場合が多く、また、金銭賠償だけでは不十分であるのが通常です(なお、この点を解消するために違約金・損害賠償額の予定を定めておくこともあり得ます。)。
そのため、秘密保持義務に違反して秘密情報を開示・漏洩するおそれがある場合等には差止請求をすることができる旨を規定しておくことが考えられます。
差止請求であれば、秘密情報の拡散を阻止できる可能性があり、事後的な金銭賠償よりも実効的な解決となり得ます。

③ 準拠法・紛争解決(Governing Law & Dispute Resolution)

海外の相手方との契約では、準拠法を取り決めておくことは必須です。
また、紛争解決の方法についても、裁判手続では実効性を欠くことも多いので、仲裁手続を利用する旨を合意しておくことが有用になります。

準拠法・紛争解決の方法については、こちらの記事(https://kanazawa.corporate.z-law.jp/business/international-law/)でも解説しておりますので、ご参照ください。

 

4. まとめ

英文NDAは一見シンプルですが、定義や秘密保持義務、期間など、各条項の言い回し一つでリスクが大きく変わる契約です。
「とりあえず雛形で…」という姿勢では、思わぬ情報漏洩や紛争につながるおそれがあります。

取引の初期段階であるNDAの段階から弁護士と連携することで、後のリスクを大きく軽減することが可能です。

法律事務所Zでは、留学経験のある弁護士や英文契約のチェックを豊富に行ってきた弁護士が、英文NDAについてのアドバイスを行うことが可能です。

英文NDA対応にお困りであれば、ぜひ一度、法律事務所Zにお問い合わせください

この記事の執筆者:坂下雄思

アンダーソン・毛利・友常法律事務所入所後、野村綜合法律事務所への移籍、UCLA LLM修了、ニューヨーク州司法試験合格を経て、法律事務所Zに参画。同時に、自身の地元である金沢オフィスの所長に就任。労働事件では企業側を担当。

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