金沢弁護士会所属

050-1791-5255

10:00〜18:00 土日祝を除く

ハラスメント問題・対応方法について、企業法務に精通した弁護士が解説

こんにちは。法律事務所Zの弁護士の坂下雄思です。
今回のテーマは「ハラスメント問題」についてのお話です。

「パワハラ社員がいて困っている。本人は指導といっているが・・・」
「セクハラをする社員がいて、社内で問題になっている。価値観のアップデートをしてほしいが。」
「新入社員が、すぐにパワハラだといって指導が難しい。本当にパワハラなのか?」
このようなお悩みを抱えている会社は多いのではないでしょうか。

パワーハラスメント(パワハラ)やセクシャルハラスメント(セクハラ)は、従業員の精神面に多大な悪影響を与え、ひいては職場全体の雰囲気を悪くすることにもつながりかねない問題です。
もっとも、問題行動を行っている当人たちには問題行動であるという意識は薄いことも多く、対応に苦慮されている会社も多いのではないでしょうか。
この記事では、ハラスメント問題について、対応方法を含めて解説していきます。

例えば、以下のような事例を考えてみましょう。

当社の営業部のA部長には、部下への対応を改善してほしいです。
というのも、A部長は部下を呼び出して、みんなのいるオフィスで叱責することがよくあり、聞いている社員も嫌気がさしていて、部内の雰囲気はどんどん悪くなっています。
また、A部長はお酒が好きなのですが、社内の飲み会で若手の社員に個人用の連絡先を聞いてきて、容姿についての言及や、個人的に飲みに行こうと連絡をしてきます。

パワーハラスメントとは?

厚生労働省の指針では、職場におけるパワーハラスメントは、職場において行われるものであって、以下の3つの要素をすべて満たすものと定義されています。
①優越的な関係を背景とした言動
②業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの
③労働者の就業環境が害されるもの
なお、客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、職場におけるパワーハラスメントには該当しないとされています。

以下では、それぞれについて、厚生労働省の指針におけるポイントを説明していきます。

優越的な関係を背景とした言動

上司(職務上の地位が上位の者)による言動がパワーハラスメントになるということは広く知られています。
しかし、業務を遂行するに当たって、問題の言動を行う方に対して、受ける側が抵抗又は拒絶することができない蓋然性が高い関係を背景として行われるものは、優越的な関係を背景とした言動に当たります。
例えば、同僚又は部下による言動で、当該言動を行う者が業務上必要な知識や豊富な経験を有しており、当該者の協力を得なければ業務の円滑な遂行を行うことが困難であるものや、同僚又は部下からの集団による行為で、これに抵抗又は拒絶することが困難であるものについても、優越的な関係を背景とした言動に当たります。
そのため、同僚や部下による言動であっても、パワーハラスメントに該当する可能性はあるという点に注意が必要です。

業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの

この要素は、社会通念に照らし、当該言動が明らかに業務上必要性ない、又はその態様が相当でないものをいい、例えば、業務上明らかに必要性のない言動、業務の目的を大きく逸脱した言動、業務を遂行するための手段として不適当な言動等が含まれます。また、当該行為の回数、行為者の数等、その態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える言動も含まれます。
なお、この判断に当たっては、様々な要素を総合的に考慮する必要があり、例えば、言動の目的、言動を受けた労働者の問題行動の有無や経緯や状況、業種・業態、業務の内容・性質、態様・頻度・継続性、労働者の属性や心身の状況、行為者との関係性等を考慮するとされています。また、個別の事案における労働者の行動が問題となる場合は、その内容・程度とそれに対する指導の態様等の相対的な関係性が重要な要素となることについても留意が必要である。
つまり、ある程度の指導が全く許されないというわけではなく、指導の原因になった問題行動の内容・程度・性質も踏まえつつ、労働者の個々人の性質等を考慮の上で、必要かつ相当な範囲の指導であれば許されるのです。
問題社員が一方的に「パワハラだ」といっているからと言って直ちにパワハラになるわけではありません。上記の考慮要素を踏まえてパワハラになるかを検討すればよいのです。

労働者の就業環境が害されるもの

この要素は、当該言動により労働者が身体的又は精神的に苦痛を与えられ、労働者の就業環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じる等当該労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じることを指すとされています。この判断に当たっては、「平均的な労働者の感じ方」、すなわち、同様の状況で当該言動を受けた場合に、社会一般の労働者が、就業する上で看過できない程度の支障が生じたと感じるような言動であるかどうかを基準とするとされています。
ここでは、「社会一般の労働者」が基準とされていますので、受け取る側が打たれ弱いからと言って、この要素が満たされやすくなるわけではないと考えられます。

冒頭の事例では、みんなのいるオフィスで叱責をしており、その程度によっては、指針にも例として挙げられている「他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責を繰り返し行うこと」として、精神的な攻撃としてパワーハラスメントになり得ると考えられます。

セクシャルハラスメントとは?

厚生労働省の指針では、「職場におけるセクシュアルハラスメント」について、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることをいうと定義されています(以下、単に「セクシャルハラスメント」といいます。)。
そして、セクシャルハラスメントには、職場において行われる性的な言動に対する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受けるもの(対価型セクシャルハラスメント)と、当該性的な言動により労働者の就業環境が害されるもの(環境型セクシャルハラスメント)があります。
なお、セクシャルハラスメントには、同性に対するものも含まれるとされており、被害を受けた者(被害者)の性的指向又は性自認にかかわらず、当該者に対するセクシャルハラスメントも、指針の対象になるとされています。

対価型セクシャルハラスメントについて

対価型のセクシャルハラスメントとは、職場において行われる労働者の意に反する性的な言動に対する労働者の対応により、当該労働者が解雇、降格、減給等の不利益を受けることをいいます。指針では、典型的な例として、以下が挙げられています。

以上の典型例からもわかるとおり、こちらは実際に労働条件に不利益を受けている場合が想定されているといえます。

環境型セクシャルハラスメント

環境型のセクシャルハラスメントとは、職場において行われる労働者の意に反する性的な言動により労働者の就業環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じる等当該労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じることをいいます。指針では、典型的な例として、以下が挙げられています。

冒頭の例では、個人用の連絡先を聞いてきて、容姿についての言及や、個人的に飲みに行こうと連絡をしてきているため、当該労働者が苦痛に感じて就業意欲が低下していれば、環境型のセクシャルハラスメントに該当する可能性があります。

ハラスメントへの対応方法

ハラスメントは、被害を受けている人からの相談や、上司・同僚・部下といった他の職場の人からの連絡・通報により発覚することが多く、相談や連絡・通報を受けたら、それを無視するのではなく、適切に対応する必要があります。
具体的には、事実関係を調査し、相談内容の真偽を確認し、それを踏まえて、どのような対応が必要かを検討する必要があります。相談者や関係者へのヒアリングや、場合によっては問題行動をとったとされる人へのヒアリングも必要になるでしょう。また、対応の内容としては、注意・指導で留めるのか、人事異動・配転で対応するのか、あるいは懲戒処分に付すのか等、様々考えられます。
なお、対応するにあたっては、相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置をとる必要があり、相談したことなどを理由として労働者に不利益な取扱いをしてはならないとされていますので、細心の注意を払う必要があります。

ハラスメント対応を放置するリスク

パワーハラスメントについては、労働施策総合推進法(いわゆるパワハラ防止法)において、事業主は、労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならないとされています。
具体的には、事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発、相談(苦情)に応じ適切に対応するために必要な体制の整備、職場におけるパワーハラスメントについて事後の迅速かつ適切な対応を取る必要があります。さらに、その際には、相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置をとる必要があり、相談したことなどを理由として労働者に不利益な取扱いをしてはならないとされています。
この義務は中小事業主も負っています。そのため、「自分らは小さな事業主だから」という言い訳は通用しなくなっています。

また、セクシャルハラスメントについても、男女雇用機会均等法により、事業主はパワーハラスメントと同じような義務を負うことになっています。

したがって、ハラスメント問題に対応する体制の構築やフローの確立は、全ての事業主にとって急務であるといえます。また、従業員に対してハラスメントについての研修を行うことも、啓発活動(価値観のアップデート)としては重要と考えられます。

さらに、パワーハラスメント・セクシャルハラスメントについては、対応を放置すると法律上の義務に違反することに加えて、相談者(被害者)から、会社に対して、職場環境配慮義務違反を理由とした損害賠償請求がなされる可能性もあります。
労働者に働きやすい環境を提供するためにも、ハラスメントは決して放置してはならないのです。

ハラスメント対応を弁護士に依頼するメリット

ハラスメント問題は、事実関係の確認がヒアリングを行わなければ確定できないことが多く、また、内容もセンシティブですので、相談者(被害者)から十分な聞き取りを行うのはかなりの技術が必要になります。他方で、通報等の対象者は、自分に不利益が及ばないようにヒアリングで正しいことを話さない可能性があります。
そのような中で、問題行動があったのかの確定をするのは非常に難しいことも少なくありません。
また、同じ会社の人にいろいろな話を直接するのには抵抗があるという従業員の方もいらっしゃるのではないでしょうか。

弁護士に相談すれば、事実関係や労働法の理解を踏まえたヒアリングのポイントをアドバイスすることができます。また、実際の処分の場面においては、労働法・雇用契約や裁判例の調査・確認を行い、法的な分析を加えて、どのような対応が考えられるかのアドバイスも可能です。
ハラスメント問題が紛争に発展した場合には、紛争の代理人を務めることもできます。

法律事務所Zでは、企業様からのご相談に対応してきた経験を踏まえて、ハラスメント問題への事後的な対応はもちろん、ハラスメント問題の予防についてもアドバイスを行うことが可能です。

ハラスメント問題にお困りであれば、ぜひ一度、法律事務所Zにお問い合わせください。

この記事の執筆者:坂下雄思

アンダーソン・毛利・友常法律事務所入所後、野村綜合法律事務所への移籍、UCLA LLM修了、ニューヨーク州司法試験合格を経て、法律事務所Zに参画。同時に、自身の地元である金沢オフィスの所長に就任。労働事件では企業側を担当。

お問い合わせ

ご予約はこちらから

050-1791-5255

10:00〜18:00 土日祝を除く

お問い合わせフォーム